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日本大会の優勝トロフィーとタイで開催される地域大会のチケットを持って喜ぶ新井さん。作品を構想中は一日中、アイデアを巡らせていたという=栃木県足利市家富町のBAR猫又屋で2022年10月14日午後10時9分、面川美栄撮影 拡大
日本大会の優勝トロフィーとタイで開催される地域大会のチケットを持って喜ぶ新井さん。作品を構想中は一日中、アイデアを巡らせていたという=栃木県足利市家富町のBAR猫又屋で2022年10月14日午後10時9分、面川美栄撮影

 中米ニカラグアのラム酒製造会社が主催する、サスティナブル(持続可能)をテーマにしたカクテル大会の日本大会が9月に東京都渋谷区で開かれ、栃木県足利市家富町の「BAR猫又屋」マスター、新井洋史さん(45)が優勝した。新井さんは27日にタイのバンコクで開催されるアジア太平洋大会で、9の国と地域のバーテンダーと世界大会への切符を争う。2007年以降、世界大会に挑んできた新井さんにとって10年ぶりの海外の舞台となり、「バンコクは夢の続きの一つ。後悔しないために、全力でやる」と笑顔で誓う。

 新井さんは足利市生まれ。中学2年から群馬県桐生市で育った。高校卒業後、父がオーナーを務める猫又屋で働き始め、27歳だった04年、初めて群馬県の大会に出場したところ、惨敗した。父から教わった技術や思いが否定された気がして悔しく、審査員として参加していた日本王者に弟子入り。毎週、店の定休日の日曜日に横浜市に通い、研さんを積んだ。その成果もあり、11年にオランダで開催された大会で2位となるなど、これまでに三つの世界大会で結果を残してきた。

 新井さんが世界大会に挑戦するのは、特別賞を受賞した12年の「ハバナクラブ・カクテルグランプリ」以来、10年ぶり。14、16年には別の国内大会で決勝まで進んだが敗れ、「実力が通用しなくなってきたのかな。諦めなきゃいけない時期なのかな」と考えるようになっていた。

 だが7月、ラム酒製造会社「フロール・デ・カーニャ」主催の「サスティナブル・カクテルチャレンジ」が日本で初めて開かれることをカクテルの情報が集まる米国のサイトで見た瞬間、「チャレンジしたい」と思ったという。「やっぱり諦めていなかった」と、まだつかめていない世界の頂点に再挑戦することを決めた。

国内大会で優勝したEVERGREEN=栃木県足利市家富町のBAR猫又屋で2022年10月14日午後8時3分、面川美栄撮影 拡大
国内大会で優勝したEVERGREEN=栃木県足利市家富町のBAR猫又屋で2022年10月14日午後8時3分、面川美栄撮影

 大会では、地産地消やフェアトレード認定を受けた素材、食品廃棄物などの持続可能な材料を用いたカクテルを作ることが求められる。新井さんが特にこだわったのは「古里」を伝えること。過去の大会の経験を振り返ると、作品が日本大会を通過しても、世界で通用しなかった。世界で通用し、日本で勝てるテーマに「古里」を選んだ。

 7月から約2カ月、作品のメッセージ性やストーリーを練り、地元での素材選びに没頭した。地産地消を念頭に、元々、シロップの商品開発で交流のあった地元企業など、主に両毛地区の食品会社などから話を聞いて、桑茶、摘果ミカン、ブドウかす、竹と四つの素材を選んだ。

 桐生産の桑茶は、養蚕業の衰退に伴い野生化した桑を粉末にして用いる。足利産の摘果ミカンは、シロップとして使用。火を使わずに作るため、二酸化炭素(CO2)削減につながる。ブドウかすは、足利市のワイン醸造場「ココファーム・ワイナリー」で排出されたもので、ドライベルモットと共に抽出して使う。竹は栃木市の間引きした竹を加工し、グラスの代用とした。

 レシピは2日ほどで仕上げ、まろやかな味わいのフロール・デ・カーニャの良さを残すため、個性の強い副材料は避けた。全体的に淡い素材を使い、「抹茶のようなニュアンスがありつつ、甘いかんきつの味」に整えた。説明がなくてもサスティナブルを連想できる「EVERGREEN」と命名した。

 迎えた9月の日本大会。オンライン審査を経て残った7人のバーテンダーの中で、新井さんは最年長だった。大会に参加するのは6年ぶりで、「久しぶり過ぎて通用するかな」と不安はあった。一方で「同じ時間でも、精度の高いものや作品を仕上げる即興力は、他の選手よりもある」と培ってきた経験には自信もあった。「地元の問題を紹介しつつ、文化などの背景も伝えたかった」。6分間の英語のプレゼンテーションで、10回以上「ホームタウン」という言葉を使ってアピール。輸送時に排出されるCO2を削減する観点から、全素材を純国産にし、地元企業と連携して地産地消に取り組んだ点が評価され、優勝した。

 アジア太平洋大会は27日にバンコクである。EVERGREENを考案する過程で多くの地元企業が、廃棄するものの可能性を模索していたという。新井さんはEVERGREENを、「持続可能な商品にするため、新たな可能性を見いだすための第一歩のカクテルにしたい」と意気込んでいる。【面川美栄】

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